2025年5月9日
中小企業向けカスタマーハラスメント防止対策のポイント
テーマ1 カスタマーハラスメントとは
テーマ2 カスタマーハラスメント対策の重要性とメリット
テーマ3 中小企業ができるカスタマーハラスメント対策
近年、社内のみならず、社外からのハラスメントに対しても厳しい目が向けられています。この流れを受け、2025年3月11日に、「労働施策総合推進法」などの改正法案が閣議決定され、すべての企業にカスタマーハラスメント対策が義務付けられることになりました。また、今年4月からは、東京都や北海道、群馬県において「カスハラ防止条例」がいよいよ施行され、その他の自治体(静岡県、大分県中津市、三重県桑名市等)でもカスハラ防止条例の制定の動きが見られています。
これからの企業におけるカスタマーハラスメント防止対策は、安全配慮義務、コンプライアンス遵守のほか、職場の生産性向上や離職率低下にも直結する重要な課題になります。そこで、今回は、中小企業向けカスタマーハラスメント防止対策のポイントについてご説明いたします。
・・・テーマ1 カスタマーハラスメントとは・・・
冒頭で、2025年3月に、カスタマーハラスメント防止対策を全企業に義務付ける「労働施策総合推進法」などの改正法案が閣議決定されたと述べましたが、改正法案は今国会での成立を目指している状況です(法律公布後1年以内に施行)。先んじて、東京都や北海道、群馬県において「カスハラ防止条例」が4月から施行され、かつそれ以外の自治体でも制定の動きがあります。
法改正前にカスハラ防止対策に取り組もうという企業の皆様は、企業の所在地の自治体で条例が制定されていないか確認をしたうえで、厚生労働省作成の「カスタマーハラスメント対策マニュアル」や、東京都など自治体の「カスハラ防止条例」をベースにされると良いでしょう。そこでテーマ1では、カスタマーハラスメントの基本的事項についてご説明いたします。
■カスタマーハラスメントとは
企業や業界により、顧客や取引先(顧客等)への対応方法、基準が異なることが想定され、明確に定義づけられているものではありませんが、企業の現場においては、以下のようなものが「カスタマーハラスメントである」と考えられています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの (参照:「カスタマーハラスメント対策マニュアル(厚生労働省)」)
カスタマーハラスメントと判断できるポイントとしては、次の2点になります。
①顧客等の要求の内容が妥当性を欠いている
②要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当である
①、②の例を以下のようにまとめてみました。
①顧客等の要求の内容が妥当性を欠いている
・企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
・要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合
②要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当である
a.【要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの】
・身体的な攻撃(暴行、傷害)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
・威圧的な言動
・土下座の要求
・継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
・拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
・差別的な言動
・性的な言動
・個人への攻撃や嫌がらせ
b.【要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの】
・過度な商品交換の要求
・過度な金銭補償の要求
・過度な謝罪の要求(土下座を除く)
・その他不可能な行為や抽象的な行為の要求
顧客等の行為が上記②aに当たる場合は、暴行(刑法208条)など犯罪に該当し、顧客等は刑事責任を負う可能性があります。また、不法行為による損害賠償(民法709条)を負う可能性もあります。
その一方で、事業者は、従業員に対して、安全配慮義務(労働契約法5条)を負っています。ゆえに、カスタマーハラスメントの被害を受けた従業員を放置するなど安全への配慮が十分でない場合、安全配慮義務違反を理由として債務不履行による損害賠償(民法415条)を負う可能性があるので注意が必要です。また、自社の従業員が、カスタマーハラスメントの行為者にならないための研修なども必要になります。なお、近年、取引先の役職者からのパワーハラスメントやセクシャルハラスメントについてもカスタマーハラスメントとして捉え「企業が社員を守るべきである」との共通認識が形成されつつある点も留意が必要です。
■カスタマーハラスメントか、正当なクレームか?
カスタマーハラスメントと混同されがちなのが「クレーム」です。この2つを同じものとして捉える方もいらっしゃいますが、全く違うものとなります。正当なクレームであれば、業務改善や新たな商品またはサービスの開発につながるものとなり、不当に制限されてはなりません。また、従業員が応対する顧客等の中には、障害のある人など合理的配慮が必要な方も存在します。カスタマーハラスメントかクレームか判断する際には、次の2点をチェックしましょう。
チェック1.自社が提供する商品・サービスに瑕疵(かし)・過失がないか
チェック2.顧客等の主張方法に問題がないか
「チェック1.自社が提供する商品・サービスに瑕疵・過失がある」場合には、謝罪とともに商品の交換・返金に応じるなどして、誠実に対応することが求められます。もし、自社に瑕疵・過失があっても、顧客等から長時間に及ぶクレームを受けるなど「チェック2.顧客等の主張方法に問題がある」場合には、カスタマーハラスメントに該当する可能性があります。
次回は、テーマ2 ・・・カスタマーハラスメント対策の重要性とメリット・・・です。お楽しみに!

編集者:井上晴司
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