2025年9月30日
求人が受理されない!? 職安法施行令改正で問われる“育児・介護法令遵守”
「職業安定法」では、労働関連法令に違反し公表された事業主からの求人申し込みをハローワークなどが受理しないことができると定められています。
2025年10月1日の育児・介護休業法改正に伴い、職業安定法施行令も改正されました。その改正により、事業主が「柔軟な働き方を実現するための措置を講ずる義務」や「対象措置の申出を理由とした不利益取扱いの禁止」に違反した場合、ハローワークでの求人が受理されない可能性が生じます。
そこで今回は、職安法施行令改正で問われる“育児・介護法令遵守”のポイントについてご説明いたします
「職業安定法」では、労働関連法令に違反し公表された事業主からの求人申し込みをハローワークなどが受理しないことができると定められています。
2025年10月1日の育児・介護休業法改正に伴い、職業安定法施行令も改正されました。その改正により、事業主が「柔軟な働き方を実現するための措置を講ずる義務」や「対象措置の申出を理由とした不利益取扱いの禁止」に違反した場合、ハローワークでの求人が受理されない可能性が生じます。
そこで今回は、職安法施行令改正で問われる“育児・介護法令遵守”のポイントについてご説明いたします
・・・テーマ1 職安法の基本と育児・介護休業法改正の概要・・・
テーマ1では、「職業安定法」の基礎知識と、2025年10月施行の「育児・介護休業法」の概要についてご説明いたします。
■「職業安定法」の押さえておきたい基礎知識
職業安定法は1947年に制定された、労働市場の基本ルールを定める法律です。日本国憲法の「勤労権」を保障し、個々の能力に適した職業への就業と職業の安定を図ることを目的としています。
主な内容としては、次の3点です。
①職業紹介:
- 求人者と求職者の雇用成立をあっせん。有料・無料があり、求職者からの手数料は基本禁止。労働条件の明示などが義務付けられている。
②労働者の募集:
- 雇用者が自ら、または委託して労働者を勧誘。文書・直接・委託募集があり、有料委託募集には許可、無料には届出が必要。
③労働者供給:
- 労働者を他人の指揮命令下で労働させること。有料は全面的に禁止。労働組合などが厚生労働大臣の許可を得て無料で行う場合のみ認められている。
制定された後も労働市場の変化に応じて改正が行われています。
2022年10月には、求人情報の的確な表示義務化、個人情報取扱ルール整備、求人メディア等届出制の創設など、“求職者保護とマッチング質向上”を目的とした改正がありました。
また、2024年4月には、労働条件明示のルールが改正され、募集時等に明示すべき事項が追加されています。具体的には、従事すべき業務や就業の場所の「変更の範囲」、そして有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)の明示が新たに義務付けられました。これに伴い、求人情報は掲載した時点を明示し、正確かつ最新の内容に保つ義務があります。
くわえて、2025年10月から、求人の申込み不受理に関する規定が改正されます。これは、育児・介護休業法改正で義務化される「柔軟な働き方」措置や、その申出による不利益取扱いに違反した事業者からの求人をハローワーク等が受理しないことができるようにするための措置です。
■2025年10月施行の「育児・介護休業法」の概要
2025年4月1日に改正された「育児・介護休業法」ですが、2段階目の改正として10月1日にも施行されます。これに伴って改正されるのが、上記でご説明した職業安定法の関連規定となります。
10月施行の「育児・介護休業法」の改正の主な内容については次のとおりです。
3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、企業が「柔軟な働き方」を実現するための措置を講ずることが義務化されます。具体的には、以下の5つの措置の中から2つ以上を選択して実施する必要があります。
①始業時刻等の変更
②テレワーク等
③保育施設の設置運営等
④新たな休暇の付与(養育両立支援休暇)
⑤短時間勤務制度
また、労働者がこれらの措置の利用を申し出たことを理由として、事業主が不利益な取り扱いをすることも禁止されます。
職業安定法との関連を見てみると、この育児・介護休業法の「柔軟な働き方」の措置義務や、それに伴う不利益取扱いの禁止規定に違反した事業者からの求人について、ハローワーク等の公共職業安定所は受理しないことができるようになるという点です。これは、求職者が安心して求職活動を行える環境を整備し、企業に対して法令遵守と雇用環境の改善を促すための措置となります。企業は、「育児と仕事の両立支援制度」に関する社内整備や対応をより一層強化することが求められていると言えるでしょう。
・・・テーマ2 企業への影響 ―2つの観点から深堀り―・・・
2025年10月1日に施行される育児・介護休業法の改正と、それに伴う職業安定法の規定改正は、企業に対し以下のような影響をもたらします。
■育児・介護休業法の観点から
まず、一つ目の改正点である「3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、企業が“柔軟な働き方”を実現するための措置を講ずることが義務化される」ことによる企業への影響は多岐にわたります。
✓制度導入と運用体制の整備
企業は、テーマ1でもご説明したとおり、以下の5つの措置の中から少なくとも2つ以上を選択し、導入する義務が生じます。
・始業時刻等の変更
・テレワーク等(3歳未満の子の養育に対する導入は努力義務だが、この枠組みでは義務対象措置の一つになる)
・保育施設の設置運営等
・新たな休暇の付与(養育両立支援休暇。この休暇は年10日以上付与する必要があり、無給でも問題ない)
・短時間勤務制度
なお、これらの措置の導入には、就業規則や育児・介護休業規程の改定が必須となります。特に「子の看護休暇」の対象年齢延長(小3まで)、勤続6か月未満労働者除外規定の廃止など、詳細な見直しが必要です。
✓個別周知と意向確認の義務化
労働者の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間(1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)に、柔軟な働き方の措置内容や利用申出先などを個別に周知し、意向を確認することが義務付けられます。人事労務部門の業務負担増が予想されます。
✓不利益取扱いの禁止
労働者がこれらの措置の利用を申し出たことを理由として、企業が不利益な取り扱いをすることは禁止されます。これは、制度の形骸化を防ぎ、労働者が安心して両立支援制度を利用できる環境を確保するために重要であり、企業は評価や配置などにおいて慎重な対応が求められます。
■職業安定法の観点から
次に、二つ目の改正点である「禁止規定に違反した事業者からの求人について、ハローワーク等の公共職業安定所は受理しないことができる」ことによる企業への影響も極めて大きいものとなります。
✓採用活動への直接的な影響
企業が上記義務(柔軟な働き方措置の導入や不利益取扱いの禁止)に違反し、行政からの公表等の措置が講じられた場合、ハローワークやその他の公共職業安定所がその企業の求人を受け付けなくなる可能性があります。ハローワークは多くの中小企業にとって、無料かつ主要な採用チャネルです。中小企業にとって主要な採用チャネルを失うことは、人材確保に大きな支障となります。
✓企業イメージの低下
法令違反による求人不受理は、企業の法令遵守意識の欠如を示すものとして求職者や社会からの企業イメージを損なう恐れがあります。これはハローワーク以外の求人媒体での募集活動にも悪影響を及ぼす可能性があり、優秀な人材の獲得競争において不利になります。
✓法令遵守の重要性の高まり
この改正は、企業に対して育児・介護休業法を含む労働関係法令の遵守を強く促すものです。単に形式的に制度を設けるだけでなく、実際に機能し、労働者の働き方を支援する実効性のあるものとすることが求められます。
以上、2つの観点から企業への影響をご説明いたしました。企業は、労働者の仕事と育児の両立を支援する制度を適切に整備・運用することが、人材の確保と定着に直結する重要な経営課題となります。2025年10月の施行に備え、現行の制度や社内規程、運用状況を早めに確認し、必要な対応を進めていくことが求められます。
・・・テーマ3 実務対応のポイント4つ・・・
テーマ2の内容をふまえて、テーマ3では、求職者が安心して働ける環境の整備、人材の定着、そして法令遵守のために、企業が講じるべき実務対応のポイントを4つご説明します。
ポイント1:社内規定(就業規則・労使協定)の整備・見直し
最も重要なのは、就業規則と育児・介護休業規程の改定です。「子の看護休暇」については、名称を「子の看護等休暇」に変更し、対象を「小学校3年生まで」に延長するほか、感染症に伴う学級閉鎖や入園・卒園式といった新たな取得事由の追加が義務となります。また、これまで勤続6ヶ月未満の労働者を除外できるとされていた労使協定の仕組みが撤廃されるため、既存の労使協定も改定が必要です。
所定外労働の制限(残業免除)の対象も「小学校就学前の子」を養育する労働者に拡大されるため、規程を修正します。
2025年10月施行予定の「柔軟な働き方を実現するための措置」は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、企業が5つの選択肢(始業時刻等の変更、テレワーク等、保育施設設置運営等、新たな休暇付与、短時間勤務制度)から2つ以上を講じることが義務付けられます。これを規程に盛り込む必要があります。
育児(3歳未満の子)や介護のためのテレワーク導入は努力義務ですが、導入する場合は規程に明記が必要です。
就業規則等の改定には、意見聴取手続き、労働基準監督署への届出、社内周知期間が必要なため、早めの着手と計画的なスケジュール管理が重要です。
ポイント2:社内文書の改定と作成(個別周知・意向確認)
「個別周知・意向確認書」「仕事と育児の両立」に関する個別の意向聴取と配慮が義務化されるため、具体的な業務の調整や両立支援制度の利用に関する情報提供を含めるように改定しましょう。2025年4月から新設されている「出生後休業支援給付」も含め、労働者に個別に周知し、育児休業取得に関するサポートが求められます。
ポイント3:制度導入の検討と情報発信
「柔軟な働き方を実現するための措置」は、自社の実情と照らし合わせ、導入する制度を早期に検討しましょう。必要に応じて、事業所単位や職種ごとの組み合わせも可能です。
求職者の関心が高いテレワーク、副業・兼業、育児・介護両立支援制度については、導入の有無や社内ルールの見直しを検討し、整備済みの場合は採用活動で積極的に発信しましょう。
従業員数100人超の企業は、育児休業取得状況等の把握・数値目標設定が義務です。採用競争力を高めるため、離職率、残業時間、有給休暇取得率など、求職者が重視する情報を数値化して開示することも有効です。
ポイント4:求人不受理規定への厳重な注意
今回の改正で特に重要な点として、育児・介護休業法の「柔軟な働き方を実現するための措置を講ずる義務」や「不利益取扱い禁止規定」に違反した場合、公共職業安定所等に求人を受理してもらえなくなる可能性があります。これにより、採用活動に大きな影響が出ることが予想されるため、法令遵守を徹底する必要があります。
以上、改正内容は多岐にわたり、施行時期も段階的です。
企業は制度全容を早めに把握し、社内規定や運用体制の見直しを進めるとともに、必要に応じて専門家の助言を得ながら計画的に対応を進めることが重要です。

編集者:井上晴司
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