2025年5月23日
中小企業向けカスタマーハラスメント防止対策のポイント テーマ2
近年、社内のみならず、社外からのハラスメントに対しても厳しい目が向けられています。この流れを受け、2025年3月11日に、「労働施策総合推進法」などの改正法案が閣議決定され、すべての企業にカスタマーハラスメント対策が義務付けられることになりました。また、今年4月からは、東京都や北海道、群馬県において「カスハラ防止条例」がいよいよ施行され、その他の自治体(静岡県、大分県中津市、三重県桑名市等)でもカスハラ防止条例の制定の動きが見られています。
これからの企業におけるカスタマーハラスメント防止対策は、安全配慮義務、コンプライアンス遵守のほか、職場の生産性向上や離職率低下にも直結する重要な課題になります。そこで、前回に引き続き、中小企業向けカスタマーハラスメント防止対策のポイントについてご説明いたします。
・・・テーマ2 カスタマーハラスメント対策の重要性とメリット・・・
2025年5月現在、カスタマーハラスメント防止対策を全企業に義務付ける「労働施策総合推進法」などの改正法が施行されているわけではないので、「取り組まなくてもうちの会社は大丈夫」と思っている企業の皆様もいらっしゃるかもしれません。しかし、現在でも、従業員と顧客等の間でカスタマーハラスメントが起きているにも関わらず、企業が黙認したり、対策を講じなかったりすると、安全配慮義務違反で従業員から損害賠償請求をされる恐れがあります。テーマ2は、カスタマーハラスメント対策の重要性とメリットについてご説明いたします。
■安全配慮義務を果たしているか? ~「損害賠償責任」肯定か、否定か~
ハラスメント裁判事例、他社の取組などが掲載されているハラスメント対策の総合情報サイト『あかるい職場応援団』に、カスタマーハラスメントに対する企業(使用者)の責任についての裁判例が2件掲載されています。その2は、裁判において企業(使用者)の“損害賠償責任”が「肯定」された事例と、「否定」された事例です。2件の事例のポイントは、企業側の安全配慮義務違反が「あった」か、「なかった」か、となります。
まずは、企業側の安全配慮義務違反はないとして損害賠償責任が否定された事例をご紹介させていただきます。その企業(コールセンター業務)においては、あらかじめ以下のような取り組みを行っていました。
顧客等から卑わいな内容や暴言等を含む電話もあることから、コミュニケーターの対応手順(マニュアル)が作成され、周知されていた。
具体的には、わいせつ電話については、転送指示を待たずに直ちに上司であるスーパーバイザーに転送すること、及び、同じ日における同一人物からの2回目以降のわいせつ電話に対しては、コミュニケーターの判断で即切断することが認められていた。
電話によるメンタルヘルス相談や、面接によるカウンセリング等を無料で受けられる、ストレスチェックを実施し、必要な場合に希望により産業医の面接指導が受けられる体制があった。
この事例では、顧客等からわいせつ発言や暴言等(カスタマーハラスメント)を受けた従業員が「安全配慮義務違反」と主張し、企業に対して損害賠償を請求。企業は上記のような取組を行っていたため、裁判所は「総合的に考慮すれば、会社が従業員に対して安全配慮義務を怠ったと認めることができない」とし、企業の損害賠償責任は否定されました。
一方、賠償責任が肯定された事例は病院における事例となります。せん妄状態にある入院患者から暴行を受けて障害が残った看護師に対し、
①ナースコールを押しているにも関わらず、ほかの看護師が応援に駆け付けることが遅れた。
②ナースコールが鳴ったら直ちに応援に駆け付けることを周知徹底すべき注意義務を怠っていた。
という事情を鑑み、病院側に「安全配慮義務違反があった」と認められ、約2,000万円の損害賠償の支払いが命じられました。
2025年5月現在、カスタマーハラスメント対策については、いわゆる「パワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」において、事業主として対応することが「望ましい」と位置付けられています。ですが、上述のとおり、安全配慮義務違反があったと認められれば、高額な損害賠償責任を負う可能性があります。「カスタマーハラスメント防止」全企業義務化となる前の現時点においても、顧客や取引先等がいればカスタマーハラスメントが発生する可能性は0ではないので、従業員や企業を守るためにも対策を講ずることが必要です。
■カスタマーハラスメント対策に取り組むメリット
企業として、カスタマーハラスメント対策に積極的に取り組むことは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
企業としてカスタマーハラスメントに対する姿勢を示すことで、企業にとって好ましくない顧客が来にくくなり、迷惑行為をする人が少なくなるなど職場環境の改善が図れ、従業員の安心感が生まれる
企業として顧客への対応方法を明示したり、顧客対応のノウハウを整理し経験を培うことで、迷惑行為への対応が迅速に確認でき、従業員が働きやすくなる
従業員が安心して働くことができるようになると、職場環境が良くなり、生産性の向上にもつながる
人材の確保が難しい中、カスタマーハラスメント対策等により職場環境を良くすることで離職者を減らすことにつながる
対策に取り組むことは、従業員や他の顧客、企業など使用者自身を守ることにつながり、「従業員を守る」ということを行動で示す重要さを会社組織として再認識できる
以上、カスタマーハラスメント対策の重要性とメリットについてご説明いたしました。次のテーマ3では、中小企業ができるカスタマーハラスメント対策についてご説明いたします。

編集者:井上晴司
最近の投稿
- 中小企業向けカスタマーハラスメント防止対策のポイント テーマ2
- 中小企業向けカスタマーハラスメント防止対策のポイント テーマ1
- 職場内のハラスメント防止対策のポイント 3
- 職場内のハラスメント防止対策のポイント 2
- 職場内のハラスメント防止対策のポイント
よく読まれている記事
カテゴリー
- Money (2)
- お知らせ (61)
- その他 (2)
- チャイニーズウイルス (1)
- ニュース (3)
- ハラスメント (1)
- 健康保険・厚生年金保険 (5)
- 働き方改革推進関連法 (6)
- 副業・兼業 (1)
- 労働安全衛生法 (2)
- 労基法 (5)
- 労災保険 (5)
- 同一労働同一賃金 (8)
- 外国人雇用 (1)
- 大迷惑 (1)
- 年金 (4)
- 懲戒処分 (1)
- 採用情報 (1)
- 法改正 (3)
- 災難 (2)
- 社労用語じてん (2)
- 福利厚生 (2)
- 賃金 (2)
アーカイブ
- 2025年5月 (3)
- 2025年4月 (1)
- 2025年3月 (3)
- 2025年2月 (3)
- 2025年1月 (2)
- 2024年12月 (1)
- 2024年11月 (1)
- 2024年10月 (2)
- 2024年8月 (1)
- 2024年7月 (1)
- 2024年5月 (2)
- 2024年4月 (2)
- 2024年3月 (1)
- 2024年2月 (1)
- 2024年1月 (1)
- 2023年12月 (1)
- 2023年11月 (2)
- 2023年10月 (1)
- 2023年9月 (1)
- 2023年8月 (2)
- 2023年7月 (1)
- 2023年5月 (2)
- 2023年4月 (2)
- 2023年3月 (1)
- 2023年2月 (5)
- 2022年12月 (3)
- 2022年11月 (2)
- 2022年10月 (1)
- 2022年8月 (2)
- 2022年5月 (1)
- 2022年4月 (2)
- 2022年3月 (1)
- 2022年2月 (1)
- 2022年1月 (1)
- 2021年11月 (2)
- 2021年10月 (1)
- 2021年8月 (2)
- 2021年7月 (1)
- 2021年5月 (2)
- 2021年1月 (1)
- 2020年12月 (2)
- 2020年11月 (3)
- 2020年10月 (1)
- 2020年9月 (1)
- 2020年6月 (1)
- 2020年5月 (1)
- 2020年3月 (4)
- 2020年1月 (1)
- 2019年10月 (1)
- 2019年9月 (1)
- 2019年8月 (1)
- 2019年7月 (1)
- 2019年6月 (3)
- 2019年5月 (2)
- 2019年3月 (1)
- 2018年12月 (1)
- 2018年11月 (3)
- 2018年10月 (4)
- 2018年8月 (1)
- 2018年7月 (1)
- 2018年5月 (1)
- 2018年4月 (2)
- 2018年3月 (1)
- 2017年12月 (1)
- 2017年11月 (1)
- 2017年10月 (6)
- 2017年8月 (1)
- 2017年6月 (2)
- 2017年5月 (2)
- 2017年4月 (1)