2026年5月13日
障害者雇用の法定雇用率改正に関する法的留意点&実務対応
テーマ1 障害者雇用制度の全体像と算定方法
テーマ2 採用から助成金活用までの実務プロセス
テーマ3 中小企業が障害者雇用を成功させるポイント
2026年7月、障害者の法定雇用率が現行2.5%から2.7%へ引き上げられるとともに、雇用義務の対象となる企業規模も「常用雇用労働者37.5人以上」へ拡大されます。これにより、これまで対象外であった中小企業が新たに雇用義務を負うこととなり、実務面・体制面での準備が急務となっています。そこで今回は、中小企業がどのように備えるべきかという観点を持ちながら、制度のポイントや実務対応についてご説明いたします。

・・・テーマ1:障害者雇用制度の全体像と算定方法・・・
■1.なぜ今、障害者雇用がクローズアップされているのか
現在、日本の労働政策は「共生社会」の実現に向け、障害者の方が当たり前に働ける環境整備を企業に強く求めています。これまでは大企業が中心だったこの取り組みも、近年の法改正により、いよいよ中小企業にとって「避けては通れない経営課題」となりました。特に2026年(令和8年)7月に控える改正は、これまで「義務の対象外」だった労働者37.5人以上〜40人未満の企業にも影響が及ぶ大きな転換点です。テーマ1では、制度の全体像と、実務の基礎となる「カウント方法」について詳しく解説します。
■2.法定雇用率の引き上げと「37.5人の壁」
民間企業に課せられる「法定雇用率(従業員のうち障害者が占めるべき割合)」は、段階的に引き上げられています。
・現在(2024年4月~):2.5% (常用雇用労働者が40.0人以上の企業が対象)
・2026年7月~:2.7% (常用雇用労働者が37.5人以上の企業が対象)
ここで注意が必要なのは、対象となる「常用雇用労働者」の数え方です。単に「社会保険に入っている人数」や「給与支払人数(頭数)」で数えるのではなく、週の所定労働時間によって「1人」か「0.5人」かを判定します。
【常用雇用労働者のカウントルール】 以下の条件を満たす労働者が算定の対象です。
・週の所定労働時間が30時間以上の労働者 = 「1人」としてカウント
・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者 = 「0.5人」としてカウント
(※週20時間未満の労働者は、雇用義務の判定基準となる人数には含まれません)
・共通条件:1年を超えて雇用される見込みがある、または雇用されていること
パートやアルバイトであっても、週20時間以上であれば「0.5人」として積み上げて計算します。2026年7月からは、この合算した人数が37.5人を超えた時点で、最低1名の障害者を雇用する法的義務が発生することになります。
【ここが間違いやすい!】
「週20時間未満の障害者」を雇用している場合、雇用率の「分子(雇っている障害者数)」には0.5人としてカウントできますが、会社全体の「分母(常用雇用労働者数)」には含まれません。つまり、「義務が発生するかどうかの判定人数には、20時間未満の労働者を入れなくて良い」という、企業にとって少し有利なルールになっています。
■3.障害者カウントの仕組み:実務で差がつく「算定方法」
障害者を雇用した際、一律に「1人=1カウント」となるわけではありません。「障害の種類・程度」と「週の労働時間」の組み合わせによって、計算上の人数が変動します。
- 身体障害者・知的障害者
週30h以上 1人、週20h~30h未満 0.5人、週10h~20h未満 対象外
- 重度身体障害者・重度知的障害者
週30h以上 2人、週20h~30h未満 1人、週10h~20h未満 0.5人
- 精神障害者
週30h以上 1人、週20h~30h未満 1人(※注)、週10h~20h未満 0.5人
(※注)精神障害者の算定特例について:精神障害者の方については、短時間勤務(週20時間〜30時間未満)であっても、当分の間の措置としてフルタイムと同じ「1人(1カウント)」として数えることができます。以前は「雇用から3年以内」などの条件がありましたが、現在は条件が撤廃され、一律に1カウントとして算定可能です。
【算定の具体例】従業員数が38人の企業で、法定雇用率が2.7%(2026年7月以降の基準)の場合
【計算式】自社の常用雇用労働者数 × 法定雇用率 = 雇用義務人数(小数点以下切り捨て)
【38人企業での計算】38人 × 2.7%(0.027) = 1.026人
算出された人数の小数点以下は切り捨てとなるため、障害者の雇用義務人数は「1人」となります。これまで義務の対象外だった従業員数37.5人以上40人未満の企業も、2026年7月からは新たに1名以上の雇用が義務化されることになります。
■4.雇用義務が未達成の場合・達成した場合の「お金」のルール
雇用義務が生じる企業には、その達成状況に応じて経済的な調整が行われる「障害者雇用納付金制度」が適用されます。
障害者雇用には、事業主間の経済的負担を調整するための「納付金制度」があります。これは企業規模によってルールが大きく異なります。
・従業員100人を超える企業の場合
〇 未達成: 不足1人につき「月額50,000円」の「障害者雇用納付金」を納める義務があります。
〇 超過: 法定雇用率を超えて雇用している場合、1人につき原則「月額29,000円(※)」の「障害者雇用調整金」が支給されます。
・従業員100人以下の企業(多くの中小企業)の場合
〇 未達成: 納付金を納める義務はありません。ただし、雇用率が著しく低い場合は、ハローワークによる行政指導や「企業名公表」の対象となるため、金銭面以外のリスクに注意が必要です。
〇 超過: 一定の基準を超えて障害者を雇用している場合、1人につき原則「月額21,000円(※)」の「報奨金」が申請により支給されます。
(※)支給人数が一定数を超える場合や、在宅就業障害者への発注がある場合などは金額が変動します。また、以前あった「特例給付金」は制度改正により終了しています。詳細な計算や申請については、当事務所までお問い合わせください。
2026年7月の改正により、新たに雇用義務が発生する中小企業にとって、時間はそれほど残されていません。障害者雇用は、単なる「数合わせ」ではありません。適切な職域(仕事の切り出し)を見つけ、環境を整えることで、人手不足が深刻な現代における「貴重な戦力」の確保に繋がります。まずは自社の常用雇用労働者が何人になるのか、将来の採用計画を含めて、シミュレーションすることから始めてみてはいかがでしょうか。
・・・テーマ2:採用から助成金活用までの実務プロセス・・・
障害者の雇用義務があることを理解した経営者が次に直面するのは、「どうやって探し、どう受け入れ、コストをどう抑えるか」という現実的な課題です。スムーズな雇用・定着のための4ステップを解説します。
STEP 1:職域の開発(「何をお願いするか」の棚卸し)
障害者雇用で最も多い失敗は、「雇ってから仕事を探す」ことです。まずは、障害特性を理解した上で、社内ニーズを掘り起こす「2つのアクション」から始めましょう。
アクション① 障害特性を理解し、得意な「業務の特徴」を知る
「何を任せられるのか?」と悩む前に、まずは主な障害特性と相性の良い業務を知ることが近道です。
・精神・発達障害: 高い集中力を活かせるデータ入力やプログラミング、手順が明確な定型業務、チャットでコミュニケーションを完結できるデジタル業務などにおいて、高いパフォーマンスを発揮する方が多くいらっしゃいます。
・身体障害: 事務作業やWebデザインなど、デスクワーク中心の業務で活躍いただけます。もちろん個人差はありますが、「ルールが明確」「集中力を要する」「対面コミュニケーションが少ない」といった特徴を持つ業務は、切り出しの有力な候補となります。
アクション② 社内での業務ニーズを検討する
特性を理解したら、次は社内の「困りごと」を探します。
・人事・総務部門からスモールスタート: まずは管理部門内で、ファイリングやスキャン、郵便物仕分けなどの定型事務を切り出します。ここでノウハウを蓄積してから、他部署へ広げるのがスムーズです。
・現場部署へのニーズ調査: 各現場で「本当はやりたいけれど、忙しくて手が回っていないルーティン業務」や「現在外注している業務」を調査します。人手不足の現場ほど、業務を切り出すことで「助かる」というポジティブな受け入れ態勢が整いやすくなります。
STEP 2:多様な採用チャネルと「実習」の活用
中小企業が活用すべき採用チャネルは複数あります。
・多彩な窓口: ハローワークには障害者専門の窓口があり、求人票の作成からマッチングまで無料でサポートを受けられます。民間の就労移行支援事業所や特別支援学校などは、就職意欲の高い候補者が多く、個別の特性に合わせたマッチングが期待できます。また、自治体主催の「合同就職面接会」は、一度に多くの候補者と会える貴重な機会です。
・「職場実習(インターン)」のすすめ: 面接だけでは、特に発達障害などコミュニケーションに特性がある方のポテンシャルを見抜くのは困難です。数日から2週間程度の「実習」を受け入れることで、実際の業務適性や必要な配慮を事前にお互い確認でき、採用後のミスマッチを劇的に減らすことができます。
STEP 3:選考・面接で確認すべき「3つの柱」
障害者雇用の面接では、スキル以上に以下のポイントを丁寧に確認することが安定就労の鍵となります。
1.自己管理能力(安定就労): 自分の障害特性を理解し、周囲に説明できるか。通院や服薬の管理、睡眠などの生活リズムが整っているか。
2.合理的配慮のすり合わせ: 本人が希望する配慮(図解での指示、静かな席など)に対し、自社が対応可能な範囲を誠実に対話します。
3.スキルと経歴の捉え方: 障害の影響で過去に短期離職がある場合でも、現在の体調や支援体制が整っていれば問題ないケースも多いです。過去の経歴よりも、「今、何ができるか」に目を向ける柔軟な姿勢が重要です。
STEP 4:返済不要の「助成金」でコスト負担を軽減
中小企業にとって、設備改修や指導員の配置は負担です。これをカバーするための主要な助成金を押さえておきましょう。
- 特定求職者雇用開発助成金
【採用時の定番】 継続して雇用する障害者を雇い入れる際、賃金の一部が助成されます(例:重度障害者等の場合、最大240万円 ※企業規模等による)。
- 障害者トライアル雇用助成金
【見極めに最適】 ハローワークの紹介により、原則3ヶ月間の試行雇用を行う場合に支給されます。「いきなり正社員は不安」という企業が、適性を見極める期間として活用できます。
- 障害者介助等助成金
【サポート体制の整備】 障害の種類に応じた介助者を配置したり、手話通訳を委託したりする費用の一部が助成されます。
- 障害者作業施設設置等助成金
【バリアフリー化】 障害者のための作業施設の新設や、スロープ設置、専用の支援機器導入(バリアフリー化)にかかる費用が対象となります。
- 企業在籍型職場適応援助促進助成金
【社内での教育支援】 自社で「職場適応援助者(ジョブコーチ)」を育成・配置し、障害者の定着を支援する場合に支給されます。
・・・テーマ3 中小企業が障害者雇用を成功させるポイント・・・
~インタビュー事例から学ぶ、戦力化への4つのアプローチ~・・・
障害者雇用を「義務の消化」で終わらせず、自社の「貴重な戦力」として定着させている中小企業には共通の工夫があります。実際の成功事例から抽出した、明日から使える4つのポイントをご紹介します。
ポイント1.固定観念を捨て「本人の強み」を適材適所で活かす
「障害者には単純な軽作業しか任せられない」という思い込みを捨て、過去のキャリアや得意分野に着目することが成功の第一歩です。
【事例】事務職志望で応募してきた方の過去の経験に着目し、「動画編集担当」として採用し、今では自社のPR動画を一手に担う大活躍に繋がった事例や、IT企業で発達障害のある方の高い集中力を活かし、「システムエンジニア」として開発効率を劇的に向上させた事例があります。
ポイント2.「職場実習(インターン)」でミスマッチを徹底排除
社内にノウハウがない不安を解消するには、面接だけで決めない「お試し期間」の活用が有効です。
【事例】採用前に2週間程度の「職場体験実習」を必ず実施。実際に現場で一緒に動くことで、企業側は「必要な配慮」を具体的に把握でき、本人も職場の雰囲気を知ることができます。このステップを踏むだけで、入社後の早期離職リスクは激減します。
ポイント3. 「スモールステップ」による柔軟な立ち上がり
最初から100%を求めず、徐々に慣れてもらう「助走期間」を設けることが定着の鍵です。
【事例】最初は「1日4〜6時間の短時間」や「ラッシュを避けた時差出勤」からスタートし、数ヶ月かけてフルタイムへ移行する段階的アプローチ。また、在宅勤務(リモートワーク)を組み合わせ、通勤ストレスを排除することで業務の質を維持している企業も増えています。
ポイント4.コミュニケーションを「仕組み化」し、体調を可視化する
現場の担当者が「どう接すればいいか」と悩みすぎないよう、ツールを使って状況を共有します。
【事例】毎日「体調管理シート」を記入してもらい、上司が客観的に疲労度を把握する仕組みや、口頭での相談が苦手な方のための「交換日記・チャット」の活用。さらに、支援機関を交えた「三者面談」を定期的に行い、仕事だけでなく生活面の悩みも早期に解決できる体制を整えています。
■今後の障害者雇用、ここが変わる?(研究会報告書案より)
2026年7月の改正だけでなく、そのさらに先を見据えた議論が始まっています。顧問先の皆様に知っておいていただきたい「未来のトレンド」は以下の3点です。
1.「100人以下企業」にも納付金の可能性?
現在は100人超の企業のみが対象となっている「障害者雇用納付金(不足1人につき月5万円)」ですが、今回の報告書では100人以下の事業主への適用拡大が明確に議題として取り上げられました。「中小企業の雇用が停滞している」という厳しい現状分析に基づき、企業間の公平性を確保するために検討を進めるべきとの意見が出ています。
2.「障害者雇用ビジネス」への監視の目
サテライトオフィス等を貸し出し、雇用数だけを確保させるいわゆる「障害者雇用ビジネス」について、国は「質」の観点から問題視しています。今後は、そうしたサービスを利用している場合の報告義務化や、利用企業が自社での直接雇用へ移行するためのガイドライン策定が検討されています。
3.「手帳のない難病患者」もカウント対象に?
これまで、障害者雇用率の算定は、障害者手帳を持っている方が対象となるのが原則でした。しかし、手帳がなくても就労に困難を抱える難病患者について、個別に判定して実雇用率に算定できる新制度の創設が検討されています。これは、企業にとって「隠れた戦力」を正しく評価できるチャンスになるかもしれません。
いかがでしたでしょうか。2026年7月の法改正は、中小企業にとって大きな変化となります。しかし、今回ご紹介した事例のように、「どうすればこの人の強みが活きるか」を共に考える姿勢こそが、人手不足時代の新しい採用戦略となります。
編集者:井上晴司
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