2026年2月3日
【令和8年4月施行】子ども・子育て支援金と迫りくる人件費負担増への備え
テーマ1 「子ども・子育て支援金制度」の概要
テーマ2 【中期予測】2040年に向けた「社会保険料3割超」の時代
テーマ3 子ども・子育て支援金に関する実務対応と留意点
令和8年(2026年)4月1日から、子ども・子育て支援施策を安定的に実施するための新たな財源として、「子ども・子育て支援金」の徴収が開始されます。この改正は、企業の社会保険料負担や従業員への説明対応にも影響を及ぼすことから、内容を正しく理解し、事前に備えておくことが重要です。

・・・テーマ1:「子ども・子育て支援金制度」の概要・・・
令和8年4月1日より、社会保険制度において企業の対応が必須となる「子ども・子育て支援金制度」が施行されます。これは、政府が決定した「こども未来戦略加速化プラン」に基づき、急速な少子化のトレンドを反転させるために必要な財源と支援の仕組みを整備するものです。テーマ1では、「子ども・子育て支援金制度」の概要についてご説明いたします。
■1.「子ども・子育て支援金」制度の概要
(1) 制度の仕組みと目的
子ども・子育て支援金制度は、少子化対策に必要な費用(年間1兆円程度を計画)を安定的に確保するための新しい仕組みです。
・負担者:医療保険(健康保険、国民健康保険など)の被保険者が、医療保険料に上乗せされる形で負担します。
・徴収開始:令和8年度から令和10年度にかけて段階的に導入されます。なお、令和8年4月1日の保険料(5月徴収分)から徴収が始まります。

・企業の負担:会社員や公務員が加入する被用者保険では、現行の健康保険料と同様に、この子ども・子育て支援金も原則として“労使折半”で事業主と従業員が拠出します。
・金額の算定:各被保険者の標準報酬月額および標準賞与額×子ども・子育て支援金率
※令和8年度の「子ども・子育て支援金率」は一律0.23%
(2) 負担増とならない仕組み
政府は、“歳出改革”と“賃上げ”の取り組みによって、実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、子ども・子育て支援金制度の導入による社会保障負担率の上昇効果がこれを超えないように構築する方針を示しています。
(3) 子ども・子育て支援金の使途(何に使われるのか)
徴収された子ども・子育て支援金は、主に以下の「こども未来戦略加速化プラン」の施策に充当され、子育て世帯への支援を強化します。
【支援施策例】
・児童手当の抜本的拡充:所得制限の撤廃、支給期間の高校生年代までの延長など
・共働き・共育ての推進:出生後休業支援給付や育児時短就業給付の創設
・こども誰でも通園制度:保育所等に通っていない0歳6か月以上満3歳未満の子どもの一時的な通園支援の創設
・妊娠・出産期の直接支援: 「妊婦のための支援給付」として、計10万円相当(妊娠届出時5万円・妊娠後期以降、妊娠している子どもの数×5万円)を支給。
・高等教育の負担軽減: 3人以上の子を扶養する多子世帯に対し、大学等の授業料・入学金を無償化(所得制限なし)。
■2.「実質負担ゼロ」のロジックと経営実務の乖離
政府は、徹底した“歳出改革”と“賃上げ”を行うことで、社会保障負担率の上昇を抑え、実質的な負担増を生じさせない方針を掲げています。具体的には、医療・介護の効率化により公費を節減し、その効果の範囲内で子ども・子育て支援金を構築するという理屈です。
しかし、経営実務の視点で見れば、毎月の給与計算において「社会保険料」という名目の法定福利費が増加する事実に変わりはありません。この負担は年収(標準報酬総額)に比例して設定されることが明らかになっています。
(1)事業主負担を含めた「年収別負担額」の現実
導入初期(令和8年度)および本格運用時(令和10年度)の、被保険者一人あたりの負担額(月額)は以下のとおり試算されています。ここで重要なのは、表の数字は「本人分」であり、企業側も同額を負担(労使折半)するという点です。
| 年収(標準報酬総額) | 令和8年度
(月額・本人分) |
令和10年度
(月額・本人分) |
令和10年度の労使合計
(月額) |
| 200万円 | 192円 | 350円 | 700円 |
| 400万円 | 384円 | 650円 | 1,300円 |
| 600万円 | 575円 | 1,000円 | 2,000円 |
| 800万円 | 767円 | 1,350円 | 2,700円 |
| 1,000万円 | 959円 | 1,650円 | 3,300円 |

※令和10年度の数値は、政府(こども家庭庁)が令和4年度の総報酬実績(227兆円)をベースに、拠出総額9,000億円から機械的に算出した試算値(本人分)に基づいています。今後の賃上げ状況等により変動する可能性があります。
例えば、年収600万円の従業員が30人いる企業の場合、令和10年度には年間で約72万円(2000円×12か月×30人)の純然たる法定福利費増となります。これを単なる「値上げ」と捉えるか、児童手当の拡充や育児休業給付の充実といった「従業員への還元」と捉え直し、社内のエンゲージメント向上に繋げるメッセージを発信できるか、企業側の情報発信力が問われています。
・・・テーマ2:【中期予測】2040年に向けた「社会保険料3割超」の時代・・・
子ども・子育て支援金による月額数百円の負担増は、実はこれから始まる「人件費激変期」の前段階に過ぎません。財務省が示した最新の見通しによれば、現役世代が負担する社会保険料率は今後も上昇し続けることが確実視されています。
■1.社会保険料率は32.6%(推計値)へ
現在、協会けんぽの合計保険料率(年金・医療・介護の労使合計)は「約29.9%(2024年値)」ですが、2040年には「32.6%」に達すると推計されています。これは、雇用者総報酬の伸びを、高齢化に伴う医療・介護給付費の伸びが大きく上回り続けるという構造的な問題に起因しています。
この「合計3割」を超える料率設定は、企業の利益率を直接的に圧迫するだけでなく、構造的な賃上げの動きを阻害するリスクさえ抱えています。
■2.「社会保険適用拡大」との二重の衝撃
さらに時間軸を近づけると、「社会保険の適用拡大」があります。国は、企業の規模や業種にかかわらず、働いている多くの人が手厚い保障を受けられる「セーフティネット」の拡充を目指していますが、これは経営に大きな影響を与えることが予測できます。
(1)「月額8.8万円(年収106万円)要件」の撤廃
いわゆる「106万円の壁」として意識されていた賃金要件をなくす方向で調整が進んでいます。施行時期は公布(2025年6月)から3年以内の政令で定める日とされており、遅くとも令和10年(2028年)までには撤廃される見込みです。
(2)「企業規模要件」の段階的撤廃
現在の「51人以上」という枠組みが、以下のスケジュールで小規模企業へも拡大される見込みです。
・2027年10月~:35人超
・2029年10月~:20人超
・2032年10月~:10人超
・2035年10月〜:企業規模要件が完全撤廃(従業員1人から対象)
(3)個人事業所への適用拡大
2029年10月から、飲食業や理美容業などの「非適用業種」区分を解消し、常時5人以上を雇用する個人事業所は原則として適用事業所となります。
まとめると、社会保険については「2029年10月に個人事業主も全業種が対象になる」、「2035年にかけて規模に関わらず週20時間以上なら全員加入の時代が来る」ということになります。これが実現すれば、これまで“扶養内”で人件費を抑えてきたパートタイマーの多くが、強制的に自社の社会保険被保険者となります。一人ひとりに、上昇し続ける保険料と、今回導入される子ども・子育て支援金の事業主負担が重くのしかかります。
「今のままで経営が維持できるか」という短期的な視点ではなく、数年以内に「週20時間以上働くなら全員社保加入」という前提に基づいた中期的な人件費計画を早めに策定する必要があるでしょう。

・・・テーマ3 子ども・子育て支援金に関する実務対応と留意点・・・
スポットワークは、企業が“直接”労働契約を締結する形態であり、労働関係法令の遵守義務を組織全体で果たすための「仕組み(体制)」を整備することが重要です。
■1.企業実務における対応ポイント
(1) 給与計算と社会保険料の変更対応
最も重要な実務上の変更は、毎月の給与計算と賞与計算です。
・保険料率の確認:子ども・子育て支援金は健康保険料率に上乗せして設定されるため、令和8年4月以降の新しい保険料率(健康保険料率+支援金率)を正確に把握する必要があります。
・システム改修:給与計算ソフトやシステムに、新たな支援金率を反映させ、従業員負担分(労使折半)と会社負担分を正しく計算・控除できるように改修が必要です。
・従業員への周知:従業員からの問合せに備え、給与明細書の項目、控除額が増加する理由、そしてその使途について事前に説明する資料を準備しましょう。
(2) 子ども・子育て支援金の使途に関する説明責任
子ども・子育て支援金制度について、国は「実質的な負担増はない」と説明していますが、従業員から「給与から引かれる金額が増える」ことに対して問合せがあることが予想されます。
企業は、子ども・子育て支援金額の算出方法や制度の目的を明確に説明できるよう準備することが望まれます。子ども・子育て支援金は、以下の施策に充当されます。
・経済的支援:児童手当の抜本的拡充(所得制限撤廃、高校生年代まで延長)、妊婦のための支援給付の創設、高等教育費の負担軽減など。
・共働き推進:育児休業給付(手取り10割相当への引き上げ)、育児時短就業給付の創設など。
・子育て支援:こども誰でも通園制度の実施。
■2.今取り組むべき「攻め」の対策
迫りくる負担増に対し、ただ耐えるだけでは企業の成長は望めません。制度の変更を逆手に取り、労働力の確保と生産性の向上に繋げる「攻め」の労務管理が不可欠です。
(1)「賃上げ促進税制」による税額控除の上乗せ
政府は「実質的な負担増はない」とする根拠の一つに「賃上げ」を挙げています。これを経営の追い風にするために、「賃上げ促進税制」をフル活用しましょう。特に令和6年度の改正により、中小企業が「くるみん認定」や「えるぼし認定」を取得している場合、税額控除率が5%上乗せされる措置が新設されました。子ども・子育て支援金を拠出する企業だからこそ、これらの認定取得はブランディングと節税の両面でメリットがあります。
(2)「社会保険適用促進手当」の活用
扶養を外れて社会保険に加入する従業員の手取りを補填する「社会保険適用促進手当」などの激変緩和措置も用意されています。これらの補助・支援をフル活用し、コスト増を最小限に抑えつつ、従業員の所得向上を実現する設計を検討しましょう。なお、社会保険適用促進手当は、現時点で廃止の予定はなく、2026年も継続して活用可能です。ただし、保険料算定除外の特例は一人につき“最大2年間”という期限があるため、2025年の年金制度改正の動向を注視しつつ、出口戦略を練っておくことが肝要です。
(3)「キャリアアップ助成金」で社会保険加入を強力に支援
「年収の壁」対策として、労働時間を延長して社会保険に加入させた事業主への助成が大幅に拡充されました。特に「短時間労働者労働時間延長支援コース」は、以下のとおり手厚い助成が受けられます。
| 延長する週所定労働時間 | 賃金の増額要件 | 助成額(中小企業1人当たり) |
| 5時間以上 | なし | 40万円(※小規模は50万) |
| 3時間以上4時間未満 | 10%以上増 | 40万円(※小規模は50万) |
※さらに、延長後に基本給を5%以上昇給させる等の追加取組で、最大75万円(小規模企業)まで加算が可能です。
社会保険適用促進手当(最大2年間の特例)と組み合わせることで、企業・従業員双方の負担感を抑えつつ、フルタイムに近い働き方への移行を促せます。
※キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)の受給には、取組を開始する前に『キャリアアップ計画書』を提出しておく必要があります。事前の準備が鍵となりますので、検討される場合はお早めにご相談ください。
(4) 労働力の最大化と「壁」の意識改革
「106万円・130万円の壁」を意識して就業調整をする従業員に対し、将来的な「壁の撤廃(全員加入)」の流れを丁寧に説明していくことをお勧めします。次回3月号で詳述しますが、2026年4月からの扶養認定ルール変更により、一時的な残業であれば扶養を外れずに済むようになります。
「扶養内で細く長く」というこれまでのマインドを、「社会保険という厚い保障を受けながら、制限なく働く」というマインドへシフトしてもらうためのコミュニケーションが必要になるでしょう。
■おわりに:社会全体で支える「子育て支援」と企業の役割
令和8年度から始まる「子ども・子育て支援金」は、確かに新たな法定福利費の増加を意味します。しかし、今回ご紹介した「最大75万円のキャリアアップ助成金」や「賃上げ促進税制による控除」は、その負担を補って余りあるメリットを企業にもたらす可能性があります。
大切なのは、制度が変わる直前に慌てるのではなく、今から数年後の人件費構造を見越し、助成金などを活用して「働きたい人が制限なく働ける環境」を整えることです。
令和8年(2026年)4月の施行に向け、まずは以下の点から準備を始めていきましょう。
✓ 子ども・子育て支援金導入による自社の正確なコスト増(労使合計額)を把握しているか?
✓ 給与からの控除額が増える理由と、その「使い道(メリット)」を従業員に説明できるか?
✓ 令和9年(2027年)以降の適用拡大も見据え、中長期的な人件費計画を見直しているか?

編集者:井上晴司
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