お知らせ・ブログNEWS & BLOG

2026年7月2日

義務化まであと3ヶ月!求職者等セクハラ防止対策

2026年10月から、「求職者等に対するセクシュアルハラスメント(以下「求職者等セクハラ」)」防止措置が企業の義務になります。「就活ハラスメント」の中でも「パワーハラスメント」「就活終われハラスメント(オワハラ)」「マタニティハラスメント」は引き続き「望ましい取組(努力義務)」に留まるのに対し、「求職者等セクハラ」については明確な「法的義務」へと引き上げられます。

義務化にあたって、事業主は措置を必ず講じる必要があり、また、実施が望ましい取組についても積極的な対応が期待されています。そこで7月号では、求職者等セクハラの現状と具体的事例をふまえ、中小企業でとれる対策や実務上の留意点について、ご説明いたします。

・・・1 求職者等セクハラの現状と具体的事例・・・

まず、求職者等セクハラとはなにか、具体的にどのような行為なのかを説明いたします。

(1)求職者等セクハラ

企業の採用担当者や従業員が、優越的な立場を利用して、就職活動中やインターンシップ中の学生等に対して行うセクシュアルハラスメントは「就活セクシュアルハラスメント」と言われていました。これは「就活ハラスメント」の一類型として扱われていましたが、男女雇用機会均等法の改正により、2026年10月に「求職者等に対するセクシュアルハラスメント(求職者等セクハラ)」として義務化されます。

【対象となる労働者(行為者)】

事業主が雇用するすべての労働者が対象です。採用担当者だけでなく、OB・OG訪問やインターンシップで接点を持つ一般の従業員による行為も含まれます。また、アルバイト社員や派遣社員など、雇用形態を問わず対象になります。

【対象となる求職者等】

採用面接や説明会に参加する求職者に加え、インターンシップ生、OB・OG訪問中の学生、教育実習生・看護実習生なども広く含まれます。

(2)求職者等セクハラの具体事例

2026年10月より防止措置が全事業主に義務付けられる「求職者等セクハラ」の具体例について、国の示す「求職者等セクハラ防止指針」をふまえながらご紹介します。

セクシュアルハラスメントは、主に「対価型」と「環境型」に分類されます。

【対価型セクハラの事例】

採用や選考における優越的な立場を悪用し、性的な要求への服従を条件にしたり、拒否したことで不利益を与えたりする行為です。

(例)

・幹部社員が学生に対し、採用の見返りに不適切な関係を迫り、断られると「うちの会社には入社させない」と脅して、不採用にする。

・従業員からの性的な言動を拒否・抵抗したことを理由に、内定を取り消したり、インターンシップ中の評価を不当に下げたり、採用差別を行ったりする。

【環境型セクハラの事例】

不適切な性的な言動によって求職者等が苦痛を感じ、就職活動やインターンシップの意欲を低下・阻害される行為です。

(例)

・面接や面談で「交際相手はいるか」「結婚や出産後も働き続けたいか」など、適性・能力に関係のない性的な事実やプライベートな質問をする。

・OB・OG訪問やインターンシップ等において、食事やデートへ執拗に誘ったり、個人的な連絡先(個人のLINE等の私用SNSアカウント等)の交換を求めたり、二人きりでの会合を要求したりする。

・「かわいいね」「スタイルがいいね」など容姿に関するコメントや、性的な冗談やからかいを言う。

・少人数の説明会やインターンシップ中に、腰や胸に触るなどの不必要な身体的接触を行う。

・インターンシップの場などで、性的な内容を含むポスターを掲示したり、画面に表示したりして不快感を与える。

・本人の性的指向・性自認に関して性的な冗談やからかいを言ったり、本人の同意を得ずに性的指向等の機微な個人情報を他の労働者に暴露(アウティング)したりする。

なお、これらのセクシュアルハラスメントは、異性間だけでなく同性間でも該当します。企業はどのような行為が違反となるのかを全従業員へ具体的に周知・徹底する必要があります。

(3)求職者等セクハラの現状

求職者等セクハラは、高い頻度で発生しています。厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、2020~2022年度卒業の就職活動(転職を除く)を経験した男女において、就職活動中にセクシュアルハラスメント(求職者等セクハラ)を経験した学生の割合は約3人に1人(31.9%)にのぼります。インターンシップ中においても30.1%の学生が被害を経験しており、深刻な実態が明らかになっています。

実態調査からは、ハラスメントが発生しやすい場面や行為者の傾向も読み取れます。インターンシップ中の行為者として最も多いのは「インターン先で知り合った従業員(47.4%)」です。また、インターンシップ以外の就職活動中では「大学のOB・OG訪問を通して知り合った従業員(38.3%)」や「学校・研究室等へ訪問した従業員、リクルーター(37.0%)」が上位を占めています。

被害を受けた場面としては、「リクルーターと会ったとき(32.8%)」や「内々定を受けた後(26.0%)」が多くなっています。被害内容については、インターンシップ中では「性的な冗談やからかい(38.2%)」、就職活動中では「食事やデートへの執拗な誘い(33.2%)」が最多となっています。

このように、採用担当者だけではなく、現場の従業員やリクルーターによるハラスメントが多く発生しているにもかかわらず、約半数以上(53.0%)の企業が求職者に対するセクハラ防止の「取組を実施していない」と回答しており、対策の遅れが浮き彫りになっています。

・・・2 法的義務が課される4つの措置・・・

次に、求職者等セクハラを防止するため義務化される「4つの措置」および、行うことが「望ましい」とされる努力義務について説明いたします。

義務化される4つの措置に違反した場合には、行政指導・勧告、勧告に従わない場合は企業名も含めた公表が行われます。単なる罰金などよりもはるかに重い、企業の採用力、ブランド価値、社内組織、そして資金にまで直結する重大な経営リスクがあります。

 (1)【措置1】事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発

「求職者等セクハラは決して許されず、行った者は厳正に処罰する」という方針と、面接などの求職活動に関するルールを明確に定め、周知・啓発する義務です。就業規則やハラスメント防止規定などに盛り込んで全ての労働者に周知する必要があります。また、求職活動のルールに関しては、労働者だけでなく求職者等にも周知する義務があります。

ハラスメントの背景にある「性別役割分担意識」などの無自覚な偏見などにまで踏み込んで労働者の理解を深め、根本的な発生原因をなくしていくことが重要視されています。

 

(2)【措置2】相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

学生や求職者が、選考への影響を恐れずに安心して相談できる「窓口」を作る義務です。相談担当者が適切に対応できるよう、マニュアルの作成や研修を行いましょう。相談窓口を定めたら、パンフレット、ホームページ等を通じて窓口の部署又は担当者等の連絡先を周知します。

立場の弱い求職者等は、「これを言ったら落とされるかもしれない」と相談をためらいがちです。そのため、窓口は人事担当者以外の者を指定することも考えられます。対応にあたっては、本人の受け止め方に寄り添い、被害が明確なケースだけでなく、判断が難しいケースや発生のおそれがある段階も含めて、広く相談に乗る姿勢が求められています。

(3)【措置3】事後の迅速かつ適切な対応

(2)の窓口などに相談があった場合、放置せず、迅速かつ正確に双方から事実関係を調査し、被害者ケア・行為者処分・再発防止策を行う義務です。

求職者等セクハラは、企業と求職者という非対称な関係で起こります。事実が確認できた場合はもちろん、当事者間で主張が食い違い、確認が困難な場合でも、第三者機関を活用するなどして適正に対処する責任を企業が負うことを明確にしています。

(4)【措置4】併せて講ずべき措置(プライバシー保護と不利益取扱いの禁止)

相談者や関係者の「プライバシー保護」と、「相談や事実確認に協力した人に対する不利益な取扱いの禁止」を徹底する義務です。

ハラスメントを隠蔽せず、誰もが安心して声を上げられる環境の土台づくりに必要な、最重要の義務と位置付けられています。

(5)【努力義務】行うことが望ましいとされるその他の取組

また、関係機関との連携や、求職者等セクハラ以外の就活ハラスメントへの対応についても、現時点で義務とはされていないものの、対策のため行うことが望ましい取り組みが示されています。

教育機関との連携:大学のキャリアセンター等からハラスメントの情報提供があった場合、連携して適切に対応すること。

パワハラ、マタハラに類する行為への対応:今回の義務化は「セクハラ」ですが、面接官による高圧的な言動(パワハラ等)についても、同様に禁止方針を示し、相談に対応すること(※性的指向・性自認に関する侮辱的な言動や、アウティング(勝手な暴露)への対応も含みます)。

他社(顧客等)からのセクハラ対応:インターンシップ生などが、自社の取引先や顧客からセクハラを受けた場合も、必要に応じて適切な対応を行うよう努めること。

・カスタマーハラスメント(カスハラ)対応:取引先や顧客等から求職者がカスハラに類する行為を受けた場合、必要に応じて適切な対応に努めること。

・・・3 採用・法務担当が今すぐ始められる実務対応・・・

採用担当者や法務担当者が施行までに必ず整備しなければならない実務対応について、主な4項目とそれぞれのポイントを合わせてご説明いたします。

(1)【対応1】就業規則・服務規律(ハラスメント防止規程など)の改定

まずは、就業規則やハラスメント防止規程を改定し、企業としての方針を明確化する必要があります。具体的には以下の3点を必ず明記します。

・セクハラ禁止の明文化:ハラスメントの対象に、自社の労働者だけでなく「求職者、就活生、インターンシップ参加者等」が含まれることを明記し、求職者等へのセクハラを固く禁じます(※)。

・懲戒規定の適用:求職者等に対してセクハラ行為を行った従業員は、厳正に対処する旨の方針と、就業規則上の「懲戒処分の対象」となることを明記し、管理監督者を含む全労働者に周知・啓発します。

・協力者等への不利益取扱いの禁止:相談をした求職者や、事実確認の調査に協力した従業員・学生に対して、それを理由とした解雇や採用選考での不利益な取扱い(内定取消など)を行うことを禁止する旨を定めます。

なお、常時10人以上の労働者を雇用する事業場では、就業規則を変更する際、労働者の過半数代表者の意見書を添付して労働基準監督署へ届け出る義務があります。2026年10月の施行に向け、余裕を持った就業規則のアップデートをお勧めいたします。

(※)就活ハラスメントを含む全てのハラスメントに対する懲罰規定を設けている企業の事例もあります。

 

(2)【対応2】採用活動における行動規範(ルール)の策定

ハラスメントを未然に防ぐため、従業員が求職者等と接する際の具体的な行動ルールを策定し、社内外に開示する義務があります。

・面談ルールの策定:OB・OG訪問やインターンシップ、採用面接において、「面談を行う時間や場所の指定(密室や飲食店、個室の利用を不可とする等)」「複数人(実施体制)での対応」「連絡手段として個人のLINE等の私用SNSの使用禁止」といった具体的なルールを定めます。

・学生と社員双方への開示:定めたルールは、社内の採用担当者やリクルーター(OB・OG等)に周知・教育するだけでなく、採用ホームページや説明会のパンフレット等の広報手段を通じて、求職者等(学生側)にもあらかじめ明示しなければなりません。これにより、学生側も「企業の公式なルール」を認識でき、密室への誘いなどを断りやすくなります。

 

(3)【対応3】求職者用相談窓口のWEB設置と、担当者向けマニュアル作成・研修

万が一被害や不安を感じた求職者が、選考への悪影響を恐れずに安心して声を上げられる体制を構築する義務です。

・相談窓口の設置とWEB等での周知:求職者等が利用できる相談窓口(専用フォームや外部委託窓口など)を設置し、その連絡先を採用情報ホームページや募集要項に分かりやすく掲載して広く周知します。

・担当者向けマニュアルの作成と研修:相談窓口の担当者が、相談者の心身の状況に配慮しながら適切に対応できるよう、事実関係の確認手順やプライバシー保護に関する留意点をまとめた「対応マニュアル」をあらかじめ作成します。さらに、そのマニュアルに基づいた対応ができるよう、窓口担当者や採用関係者に対する研修を実施し、有事の際の迅速な連携体制(人事部門との連携など)を整えておくことが求められます。

 

(4)【対応4】採用関係者および全従業員に向けた継続的な教育・研修の実施

規程やルールを形骸化させず、実質的な罰則(企業名公表や深刻な採用難など)を回避するためには、現場の意識改革が不可欠です。

・採用関係者への実践教育:面接官やリクルーター(OB・OG等)、インターンシップの指導担当者に対し、「何がハラスメントになるのか(プライベートな質問や私用SNSの利用禁止など)」「採用プロセスにおける構造的な力関係(求職者は断れない立場にあること)」を具体的に研修します。

・全社的な意識醸成(風化の防止):採用担当者以外でも学生と接する機会はあるため、全従業員を対象としたeラーニングや、ハンドブックの読み合わせなどを定期的に実施し、「会社として求

職者セクハラ・就活ハラスメントは許さない」という方針を組織全体に浸透させます。特に近年は、就活マッチングアプリなどを活用した非公式なOB・OG訪問において、学生と1対1になる場面を利用した求職者等セクハラ事件が多く発生しています。こうした企業の目の届きにくい私的な接触から、企業ブランドを大きく損なう重大なトラブルに発展するリスクがあるため、公式の採用関係者のみならず、現場の全社員に向けて求職者セクハラ・就活ハラスメントのリスクと対策の必要性を強く認識させることが必要不可欠です。

(5)ポイントは「社員と学生の非公式な接触をいかに防ぐか」

非公式に実施されることの多いOB・OG訪問をはじめとする就職活動について、企業がルールを設けて管理下(公式の場)に置くことが、求職者等セクハラ事件を防ぎ、学生と企業双方を守るための最重要課題となっています。

(例)

・OB・OG訪問用マッチングアプリへの登録を禁止する(住友生命などの事例)。

・私用SNS(LINE等)での連絡を禁止し、会社指定のメールシステムを通す。

・「会社への事前申請(届け出)」を必須とし、会社が把握していないOB・OG訪問を禁じる(大林組などの事例)。

・面談場所を制限し、個室や飲食店での飲酒を伴う面談を禁止する。

 

これらの実務対策は、規程の改定だけでなく、採用ホームページの改修や全社的なルール浸透の研修を伴うため、準備に相応の時間を要します。2026年10月の施行に確実に対応できるよう、早急に現状の採用プロセスの見直しと体制整備に着手しましょう。

井上晴司

編集者:井上晴司

最近の投稿

よく読まれている記事

カテゴリー

アーカイブ